ベイビーブローカー
先日、是枝裕和監督脚本の韓国映画のベイビーブローカーを見たのだが、これも万引き家族に匹敵するほどの社会派映画であった。
テーマは捨て子と赤ちゃんポストで、あらすじは赤ちゃんポストに捨てられた赤ん坊を連れ去り、子どもを欲する夫婦に売りさばく二人組と赤ん坊を捨てた母親が里親探しをし、それを現行犯逮捕しようとする刑事がさまざまな駆け引きをするロードムービーである。
この映画で印象に残るのは登場人物の一つ一つの台詞である。
冒頭で刑事が捨てるなら産むなという世間で最も標準的な言葉が出てくるし、捨て子のニュースを見た者100人中120人が真っ先に思うことである。
他にも、赤ちゃんポストがあるから母親が甘えるとか、いかにも物事を善悪二元論でしか考えない大衆が好みそうな台詞もあれば、何で母親だけが責められるんだ、というもっともなものもあり、更に母親の産む前に堕ろされるのと産んで捨てられるのとどちらが不幸なんだという台詞は考えさせられた。確かに、母親の胎内にいる子どもを不幸と決めつけて堕胎させるというのは、赤ん坊への人権蹂躙も甚だしいし、とんでもない傲慢ではある。
そして、赤ん坊を連れ去る主役のブローカーも誰彼なしに子どもを売って金儲けしたいわけではなかった。というのも、最初に里親に名乗り出た夫婦と交渉しているときに、夫婦から赤ん坊の眉毛が写真と違うとか些末なことでケチをつけられ、挙句は赤ちゃんはレイプされてできたのではないだろうななどという侮辱まで言われた挙句、引き取りの金額まで最初の約束よりも値下げして一括払いから分割払いとまで言われて頭にきて交渉決裂ということをした。誰が見ても、この夫婦は子どもを犬猫程度にしか見ていないということがわかるし、ブローカーも金だけが目的なら相手の言い分で取引を成立させたであろう。それをしなかったところにブローカーなりの信念を感じた。
それからも、里親探しは難航して、最後はしかるべき結末にはなるが、そこまで絶望を感じさせる内容ではなかった。
確かに、ブローカーも母親も法的にも世間的にも許されないことはしていたが、はたしてそれを一方的に断罪できるのであろうか。少なくとも、虐待はしなくても今風に言うなら毒親と言われるその辺の親よりはよほど赤ん坊のことを考えていたように思えた。
この映画をより深く味わうなら万引き家族とパラサイト半地下の家族を併せて見ることをお勧めする。
